この3週間程、実は年甲斐も無く(笑)受験生生活を送っておりました。というのは、、、
9月いっぱい、れじとん(旦那)の新作オペラ初演のためストラスブール国立歌劇場にずーっといたのですが、その時に「こんな公募があるよ!」とスタッフの人に見せられたのが
「マルセイユ市立歌劇場副指揮者兼ピアニスト募集」の公示。
「今更副指揮者なんて。。しかもピアニスト兼、やないの。。。」
と、最初は全然乗り気じゃなかったのですよ。でも、れじとんが
「マルセイユ!ボクの故郷!一緒にマルセイユで過ごせる時間が増えるし、受けてよ!」
って言うし、、まあ受験準備の時間はあるし、、収入の足しにはなるし、、、。
でもやっぱりやる気になれない(苦笑)。。。
で、試しに(ファビオ)ルイージさんに相談してみました。
そしたら
「そりゃあ、是非受けてみなさい!ボクが準備を手伝うからチューリッヒにおいで!」
って言うやないですか(笑)
そーゆーことなら、つうわけで、、、
3週間みっちり勉強しましたですよ。
今回の公募、副指揮者兼ピアニストということで、試験の内容がちょっと変わっていました。
一次試験はピアノの実技。しかも課題が
オペラ
ワーグナー トリスタンとイゾルテより、2幕の愛のデュエット全部(少なくとも30分以上はする)
シュトラウス エレクトラより第一場
ヴェルディ ファルスタッフより、フィナーレのフーガ
ビゼー カルメンより ミカエラのアリア(その場で歌手を伴奏する)
オーケストラスタディ
ショスタコーヴィッチ 交響曲第一番のピアノパート全部
ストラヴィンスキー ペトリューシュカのピアノパート全部
全部弾くと1時間半位もかかるプログラムなんですよ!マジかよ!!!!(笑)
で、一次試験通過者のみ受けられるファイナルが
ワーグナー トリスタンとイゾルテより「イゾルテの死」(オケ版)
メンデルスゾーン 真夏の夜の夢 序曲
チャイコフスキー 交響曲第四番1楽章
ヴェルディ 運命の力 序曲
ビゼー カルメンよりミカエラのアリア(伴奏指揮)
以上の5曲をマルセイユ交響楽団を実際に指揮する、というもの。
私はここ最近ろくにピアノを練習していなかったので、まずは指のリハビリからのスタート。最初の2週間は毎日ひたすら音階のエクササイズを3時間+読譜を2時間!(泣)
でも、なかなか弾けない部分があったりするので、友人のドイツ在住ピアニスト濱倫子さんにスカイプでレッスンしてもらったりもして(笑)、そりゃもうエラい騒ぎでした。。
受験を決めた当時、まだストラスブールにいたので、ストラスブール国立歌劇場に頼んで練習室を使わせてもらい、とにかく空き時間を見つけては、さらいました。。。
泣きそうになりながらも、ルイージさんがチューリッヒで待ってる事を思うと諦めるわけにもゆかず。。。
とにかく形にだけは仕上げて、チューリッヒへと向かいました。
チューリッヒ滞在中ルイージさんが気を利かせて、質の良いスタインウェイピアノが置いてあるチューリッヒ歌劇場の合唱リハーサル室で私が自由にピアノがさらえるように取りはからっておいて下さいました。ありがたや!
なもんで、ルイージさんがいない間、私はひたすらピアノを練習してたわけです。そしたら、色んな人が取っ替え引っ替え部屋に入って来るんです。
「ねえねえ、なんでキミ、ファルスタッフさらってるの?」って訊いて来る合唱指揮者。
「ペトリューシュカ!いやぁ〜、ボクも今それさらってるんだよ〜。キミ、上手だねぇ。素晴らしいよ!」って何故か褒めに来たコレペティのお兄さん(笑)。
チューリッヒ歌劇場のスタッフさん達、なかなか気さくですねぇ(笑)。
そんなこんなで、取り憑かれた様に練習してヘトヘトになった頃、ルイージさんがニコニコと現れて
「さあ!レッスンしよう!」、となるわけです(笑)。
ルイージ「で、何を準備しないといけないの?」
私「とりあえずはピアノの試験をパスしないといけないんですよ。今まで副指揮者の選抜試験でピアノの実技があったことなかったし、最近ろくにピアノをさらってないのでどうなることやら。。」
ル「じゃ、とりあえずピアノから見ようか。はい、ボクが横で指揮するからペトリューシュカ弾いてみて!」
スコアを見ながら指揮を始めるルイージさんに合わせて弾いてたら、途中でよくわからなくなった。。
私「すいません。よくわからなくなりました。。」
ル「だって今、ボクが振り間違えたんだもん。ごめんごめん。。」
ま、こんな感じで楽しく色んな曲を見ているうちに、ルイージさんも乗って来て
ル「ねぇ、ちょっとボクにも弾かせて!」
って、自分でもピアノを弾き始め、、、(笑)
ル「このパッセージはさぁ、運指が良くないから弾きにくいんだよ。」
と言いながら、弾きやすい運指まで書き込んで下さり(恐縮)、、
別の日には、自分が指揮する本番の20分前、「マエストロ、そろそろスタンバイして下さい!」というアナウンスが流れるまで、音楽監督室で指揮の仕方についてあーだこーだアドヴァイスを下さいました。同じ部屋の中にルイージさんの奥さんと一番下の息子さんもいて(笑)、私は邪魔してるようで早く終えないと!と焦ってたら
「ピアノピアーノ!!(落ち着いて!ゆっくり!)」
と、ルイージさんに諭されたし(笑)。
こんな感じでさんざんルイージさんにお世話になり、また勇気付けて頂きながら、いざ!試験に臨んだわけです。
受験者は総勢34人。
審査員は2人、いや、実質上は1人。
マルセイユ市立歌劇場の音楽監督、ローレンス・フォスターさんと、彼に付き添う歌劇場支配人。
ようするに、、フォスターさんの独断ぢゃないか!!(笑)
私は以前フォスターさんのアシスタントを務めたことがあり、その後受けた正式採用コンクールでフォスターさんは私を2番手にし、アメリカ人の男の子を1番手として採用した、という前科があるのですよ。。。
また同じ事が起こるような気がしなくもない、、と、思いながらも、まずは一次試験に挑戦。
私の顔を見るなり「お〜、知ってる顔だねぇ〜。」というローリー(フォスター)さん。
ローリー「キミ、どうしてボクがペトリューシュカを試験の課題に入れたかわかるかい?ボクは復讐したかったのさ。若い頃クリーヴランド響の副指揮者兼ピアニストの選抜試験を受けたんだけど、その時の課題がペトリューシュカだったのよ。審査員はジョージ・セル。で、ボクはその試験に落ちた。その時に採用されたのが誰だかわかるかい?ジェームス・レヴァインだよ。」
話しだすと止まらないローリーさん(笑)。
で、まあ、色々と弾かされたわけです。
試験を終えて会場を後にして1時間後くらいに、マルセイユ歌劇場から連絡。
「あなたは一次試験に合格しました。ファイナルに出場して下さい。」
えええええっ!!!私の受験番号は2番だったから、まだ全員受け終わってないはずなのに、もう「合格」ってか??!!(笑)
とりあえずルイージさんに「一次受かった」とメールを書くとすぐに返事が。
ルイージ「おめでとう!!ファイナルで指揮するときは、××と○○と△△に気をつけなさい。自信持って!」
でもって、2日後にファイナルの試験がありました。ファイナリストはフランス人2人、イタリア人2人、私(日本人)の計5人。
私がトップバッターで、朝の9時半の寝ぼけたオーケストラを45分間指揮しました。
審査員は、、、ローリーさん(笑)。
指揮し終わって、昼ご飯食べて、多少ビールまで飲んでたら、マルセイユ歌劇場から連絡。
「もう一回戻って来てチャイコフスキーを指揮して下さい。」
しょうがないから、あわててスーツに着替え直して歌劇場へ。
最後の受験者が終わった後に、何故か私がもう一回登場して10分間チャイコフスキーを指揮。
その後結果発表がありました。
案の定私は2番手で、フランス人の若い男の子が採用されました。
デジャヴ、ぢゃないか!!!(笑)
とりあえずルイージさんにメールで「すいませ〜ん。ダメでした〜。」とメールしたら、2分で返事が。
ルイージ「えええっ!ものすごく残念!!!!でもキミの資質はボク、よくわかってるからこのまま良い仕事して結果を出し続けてゆきなさいね。」
と、いうことで、、、マルセイユ歌劇場就職はなりませんでしたが、、、
冷静に考えると、
マルセイユの小さな市立歌劇場のポストの準備のために、ストラスブール国立歌劇場やらチューリッヒ歌劇場やらに大変お世話になり、濱倫子さんの貴重なアドヴァイスをもらい、挙げ句の果てにルイージさんにコーチしてもらった、という、、、
なんとも「シュール」な経験でした(笑)。
お世話になった方々、本当にありがとうございました。
続けて精進致します!!!